反骨と異端

アウトローは文化だ

独身男女がお金を貯めこんでいても(その3)

作家の藤堂志津子さんのファンである。

彼女の自伝的なエッセーを読んでいたときに、こんなくだりがあった。

藤堂さんは作家になる前は広告代理店勤務だった。広告代理店で文章を書いていたのだから、高給とりだったはずだが、30歳ごろ会社を辞めるときに貯金はほとんどゼロだったとか。彼女は気前のよい人で、仕事が上がると、後輩を連れてはあちこちでおごりまくっていたそうだ。

「駅前に高級なウナギ店が出来た」と知れば、部下、クリエイターを目指している若い社員たちを何人も一緒に連れていって、全部彼女がおごってしまう。

夢を抱いて都会に出てきた貧乏クリエイターと一緒にウナギや美味しいものを食べていたからお金は貯まらず、あるきっかけで広告代理店を辞めることになって

「結婚もしていなければ子どももいない、貯金もゼロ」という状況で、

どうしようと思っていた時に、「直木賞」を受賞してプロ作家の門が開ける。

 

“〇歳までに貯金をしよう”とか“貯めこもう”と思えば、相当な貯金ができたはずであるが、すっからかんになるまで後輩におごりまくって、後先何も考えていないような人だから賞レースに勝ってタイトルを手にしたともいえる。

 

でも藤堂さんには部下におごって何かリターンを得たいという気持ちはなく、ただ

「美味しい一流店のウナギは食べたいが、ひとりで行くのはつまらん」と、若い子に気前よく高級店の味をシェアしていたのであろう。

若い子の「経験値を上げる」のに、自分のお金を遣いまくったのである。

 

もしも藤堂さんが「ライターなんて不安定なんだから、私もお金を貯めこまなきゃ」と節約に節約をするタイプだったら、おそらく熾烈な賞レースに敗北していたのではないか。「貯めこむ」という行為は、潜在意識的には自分で“もう成長しません”と宣言する行為である。

“まだまだこれからさ、どんどん働いて、どんどん稼ぐ”と心から思っていれば、貴重な独身時代を節約に明け暮れようとは、夢にも思わないだろう。

 

独女日記 (幻冬舎文庫)

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